慢慢走 Walking Slowly

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《舞台》ガマ発動期「真夜中ボウル」

ガマ発動期「真夜中ボウル」
2003年6月18日(水)~22日(日)@下北沢駅前劇場
作:佃典彦 演出:松本きょうじ
出演:中原和宏、蒲公仁、宇鉄菊三、木立隆雅、千田ひろし、寺十吾、水谷ノブ、山下千景、平田敦子

ガマ発動期プロデュースの第二弾。第一弾は「ボクシング」の芝居。第二弾は「ボウリング」の芝居。言葉遊びのように芝居を楽しんで作っている。そんな空気が伝わってきてこっちも楽しくなる。
歌舞伎や商業演劇が主の老舗劇場の地下にあるボウリング場が舞台。なんとも奇妙な設定だなぁ、と思っていたが、パンフレットにある佃氏の言葉によると、名古屋の御園座という、歌舞伎・商業演劇中心の劇場の地下に、本当にボウリング場があったのだとか。しかもそこがボウリングの発祥の地なのだという。現実なのに、なんとも言えない虚構感。それを芝居の題材に選んだ佃氏。偶然と才能が作り上げた佳作といえる。

 あらすじをざくっと。劇場地下のボウリング場を訪れた「町中探検隊」?という講座の講師&受講生。ここであの名優もボウリングを楽しんだのね!と盛り上がる人々。その様子を記録する、と言いながらカメラを回す不思議なたたずまいの青年。突然舞台上に現れる映像。炎、煙、火事の映像が舞台を包み込む。そして、青年のモノローグ。この日、劇場は大火事に見まわれ、半分が焼け落ちた、と。
時が過ぎ、焼け落ちた後の劇場地下・ボウリング場。火事で死んだ俳優、市川唄エ門と親交のあったプロボウラー5人が集まっている。差出人が唄エ門となっている手紙を受け取り、ここに呼び出された様子。誰のいたずらだ?目的はなんだ?と不審がる人々。そこにもやはりいる、カメラをひたすら回し続ける不思議な青年。お前はなんだ?と聞かれれば、記録係です、と答えるだけ。何の記録なんだ?苛立つプロボウラーたち。
徐々に明らかになるこの集まりの目的。記録係と名乗る青年、実は唄エ門の息子。出火場所はどうやら父の楽屋だが、未だ出火原因がわからない。自殺か?他殺か?事故なのか?父の死の真相を知りたいという息子の申し出を受け、服部プロが企画した今日の集まり。どうやら出火直前にこの中の誰かが唄エ門の楽屋をこっそりと訪問しているらしい。その人物が何か知っているのでは・・・。交錯する憶測、怒り、悲しみ、欺き。
真実は闇の中。父と、プロボウラーに背中を押され、息子は夢だった映画製作に取り組む。真夜中のボウリング場。ここに今、5人のプロボウラーが集まった。その映画のタイトルは、「真夜中ボウル」。


非現実に思える設定がとても心地よい。非現実とリアリティーが程良くブレンドされて、観客の意識をとらえて離さない。舞台上の世界にすっかりはまりこんでしまった。加藤ちかの美術が素晴らしい。随所に使われる天野天街の映像のリアルさ、ポップさ、テンポのよさが心地よい。
役者は全員巧み。唄エ門役の中原和宏は、商業演劇のベテランわき役の味をにじませ、違和感まったくなし。唄エ門と特に親交の深かった女性プロボウラー中井役の山下千景は、男性も一目置く強さと凜々しさを兼ね備えたはまり役。唄エ門の息子でカメラマン役の水谷ノブは、その存在の妖しさ、時々のぞかせる狂気にも見える色気で、舞台全体を一段と奥深いものにしていた。寺十吾の圧倒的なイロモノ存在感はクセになる面白さ。