慢慢走 Walking Slowly

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【舞台】三田村組「猿股のゆくえ」

三田村組第12回公演『猿股のゆくえ』
2007.3.27(火)~4.8(日)@サンモールスタジオ
作・演出 田村孝裕(ONEOR8)
出演:岡本麗、中村方隆、古屋治男、朝倉伸二、平野圭、冨田直美、保倉大朔、久下恵美、栗田かおり/三田村周三

何回か見たことある三田村組。
毎回、心がなんだかじんとする、小粒ながらもあたたかい芝居を見せてくれる。
今回は、何かとお世話になっている田村さんの作・演出というのもあって観劇。
平日夜なのに、客席はぎゅうぎゅう満杯。
この公演の注目度の高さを思い知らされる。

【以下、ストーリーの覚書。ネタばれあり】

 

とある一家の物語。
母(岡本麗)は病気で余命あとわずか。それには本人も気づいてる。
長い入院生活を送っていたが、一時帰宅を許されて家に帰ると、バイク屋を営む夫(三田村周三)と、従業員の男性・長女の元カレ(保倉大朔)に加え、これが会う最後の機会かもしれないと、長男(古屋治男)次男(朝倉伸二)長女(冨田直美)次女(久下恵美)+次女の夫(平野圭)といった家族が全員集合。

実は、長男と次男はここ5年ほど仲が悪く、周囲が気を使ってしまうほど一触即発の険悪ムード。しかしその原因は誰も知らない。
先の長くない母親の前でくらいは穏やかにしていようとお互い思うも、やはり言葉を交わせば怒鳴りあい掴み合い。

自分がもうすぐ死ぬことを悟っている母は、偶然病院の待合室で知り合い、韓国ドラマ好きということで意気投合した家政婦(栗田かおり)を連れてくる。
自分の入院中、そして死後も、夫の身の回りの世話をさせるために雇うのだと、夫に相談もせずに勝手に決めてしまう。
この家政婦がどこか自分と似ており、きっと夫は家政婦のこと好きになるわよ、ふふふ、と子供たちの前でいたずらそうに笑う母。

この日、長女が彼氏を家に連れてくることになっていて、母はウキウキ。
しかし、家にやってきた男(中村方隆)はもう60過ぎ、妻子ありで現在離婚調停中らしい。
自分や夫より年上の人と結婚するだなんて冗談じゃない、ふざけるな、と母は大混乱、大騒ぎの果てに家を飛び出す。
みんなは長女を責める。お母さんショック受けるのわかっててなんでわざわざこんな日に連れてきたんだ等々。
店の従業員として長年母のそばで接してきた長女の元カレは泣きながら兄弟たちを責め立てる。
お前らはおかみさんの気持ちをわかってない、長男次男は喧嘩するし、長女は不倫相手を連れてきたりして、おかみさんを傷つけてばかりだ等々。
しかし、長女が連れてきた男が、静かに諭す。きみがそれを言っちゃいけない。きみは所詮他人なんだ。兄弟たちはきみ以上に悲しみ苦しんでいるんだ。

結局母はそのまま体調を崩し、即病院へ戻る。
数日後、病室で夫としみじみ語り合う。
長女の結婚を許してやろうと思う、という母。
ただし、長女より先に死なない、って約束してくれるなら、という条件付きで。
夫は意地悪だな、と返すが、母は「だって本心だもの」と。

母は、夫に手紙を渡す。
私の四十九日が終わったら開けて読んでね。
夫はわかった、と手紙を懐にしまう。
そして、母が夫にお願いがあるという。
これからテレビで放送が始まる「春のワルツ」という韓国ドラマを、どうやら自分は見られそうにない。(放送が始まるまで生きられそうにない、という意)
だから、夫に代わりにそのドラマを見てほしい、と。
そして、そのドラマのストーリーを、私の仏壇に向かって話して聞かせてほしい、と。
夫は困惑するが、とりあえずわかったよ、と返事。

時間は流れ、母の四十九日。
長女は例の男性と仲睦まじく。男性は「長女より長生きする」と母と約束したらしく、健康には気をつけてます!と笑顔。
長男次男の喧嘩の原因が明らかになる。家にあったズボンについて「このズボンは俺が買ってきたものだ」「違うそれは俺のものだ」とお互い譲らないままヒートアップして手がつけられない喧嘩になり、それ以来5年もの間険悪になったのだと。周囲は皆呆れ顔。当人たちも、意地の張り合いで引っ込みがつかなくなっている様子。

夫は、例の預かっていた手紙を開いて読む。
そこに書かれていた妻からの言葉は、、、
「家政婦さん、あなたの好みのタイプでしょ?口説いてみたら?」
以上。なんじゃこりゃ、と気が抜けて笑う夫。
でも実は図星で、まいったまいった。
その勢いで、本当に家政婦さんを食事に誘ってみるも、実は家政婦さんは従業員の男性といい仲になっており、あっけなく玉砕。
「ダメでした~」と仏壇に報告するトホホな夫。
そして、メモ帳を取り出す。そこには「春のワルツ」を見ながらメモしたストーリーが書かれている。仏壇に向けて、一生懸命ストーリー説明を始める夫。
話し終えたところで、ビデオにとっていた続きを見始める。
しかし、どうも韓国ドラマにのめり込めず面白さのわからない夫は、見ながらコックリコックリと居眠りしてしまう・・・。

田村さんの脚本も演出も、描き過ぎないところがやっぱり好きです。
見る側の想像力に委ねてくれるところが嬉しい。
思いとか考えを、強制してこないところが心地よい。

方隆さんが従業員の男性に「きみがそれを言っちゃいけない」と諭すシーンがすごく好きです。
母親が亡くなる悲しみは、本人たちにしかわからないと思う。
従業員の男性は彼なりに、おかみさんが亡くなる事をとても悲しく思っているだろうし、彼なりにおかみさんのことを思いやっているだろうと思う。
でも、血のつながった子供たちは、きっと彼よりももっともっと深いところで、悲しみ、苦しんでいるのだろうと思う。
長女が、うんと年の離れた男性を連れてきたのだって、彼女は彼女なりに思い悩んだだろうと思う。母がショックを受けるのを承知の上でそれでも連れてきたのは、やはり自分の好きな男性を、ちゃんと母に知っておいてもらいたいという、彼女の愛情ゆえの行動だったのだろうから。

一番グッときたのは、自分が見られないであろう韓国ドラマを、夫に代わりに見てくれ、とお願いするところ。
同じく韓国ドラマ好きの家政婦さんではなく、他の誰でもなく、自分が一番愛している夫だからこそ、見てほしいって思ったんだろうなぁ、と。
自分の好きなもの、自分の大事なものを、夫に託したいと思ったそのしみじみとした愛情に感動。
そして、韓国ドラマをひとつも面白いと思えないのに、言われたとおり見て、よくわからないなりに自分の視点で一生懸命ストーリーを説明する夫の姿は、とってもとってもかわいかった。

長男次男の大喧嘩の発端が、どうでもいいようなくだらないことだった、っていうエピソードとかも、ああわかるわかる、となんだかあたたかくて好き。

いい作品を見たな、とほのぼのしながら帰途に着けたのでした。