《映画》ウェディング・バンケット
映画「ウェディング・バンケット」(原題:囍宴)
監督・脚本・制作・編集:アン・リー(李安)
1993年、108分、台湾・アメリカ
以前WOWOWで放送していたのを偶然途中から見てとても面白かったので、最初からちゃんと見たいとずっと思っていた作品でした。
先日感想を書いた「恋人たちの食卓」同様、“父親三部作”の一つでこちらは第二作。
もちろんこの作品でも、ラン・シャン(郎雄)が父親役で登場します。
《映画》「恋人たちの食卓」 - 慢慢走 Walking Slowly
ニューヨーク在住の台湾人青年ウェイトン(偉同)は白人男性サイモンという恋人がいて同棲中。それを知らない台湾の両親は息子を心配して「早くいい人見つけて結婚しろ」と言ってくる。サイモンのアイディアで、ウェイトンは上海から来た中国人女性ウェイウェイ(威威)と偽装結婚をすることになる。ウェイウェイは画家を志しているが職がない上にビザの期限が迫っており焦っていたが、ウェイトンと結婚すればグリーンカードを取得でき退去せずに済む。そしてウェイトンは結婚して両親を安心させることができる。まさに双方にとって好条件の名案だと思われたが、ウェイトンの両親が突然ニューヨークにやってきたことにより、二人は夫婦のフリを演じなければならなくなった上、両親は盛大な結婚披露宴をやれ、と迫ってくる。仕方なく事を進めていく中、少しずつウェイトンとサイモンの関係にすれ違いが生じてしまう。そして盛大な披露宴が無事に終了した夜に起きたある出来事から、事態はますます複雑な方向へ……。
1990年代にこのテーマ(同性愛)を、こんなに温かくハッピーなものとして描いた今作品は本当に素晴らしいと思います。アメリカ在住の長いアン・リー監督の、多様性を目の当たりに生活してきた人だからこそ描ける優しいまなざしの作品です。
終盤に出てくる、ウェイトンの父とサイモンのシーンが心に深く沁みます。ラン・シャンが父親の複雑な胸の内を懐の深い演技で見事に表現しています。
もちろん、一番尊重されるべきは本人たちの気持ち。ウェイトンとサイモンがお互いを愛し合い、必要としているのであればそれは誰にも侵害されるものではありません。
でもその一方で、こどもの幸せを願い心配してしまう親心というのもわからないわけではなく……ウェイトンの両親の気持ちを「こどものことを考えていない、自分本位な考え方だ」と非難するのもまた心苦しいものがあります。突然、息子が同性愛者だと知り、それを即受け入れろ、というのは人によっては酷な場合もあるのでしょうね。ウェイトンの両親も、今すぐには無理でも、ゆっくりと息子の現実を受け入れていってくれたらいいな、なんて思いながら見ていました。
しかし「結婚披露宴をやりなさい!」と主張して譲らない両親には正直イラッと来てしまいました(笑)
親を喜ばせたい、安心させたい、という親孝行なウェイトンの気持ちもわかるし……。でも、結婚は誰のためにするの?結婚披露宴は誰のためにするの?と問いかけたくなってしまいます。
でも最大級にイラッと来たのはやはり、人の結婚披露宴ではしゃぎすぎて迷惑すぎる友人たち(笑)だめなんですよねーああいうノリ苦手。それ、二人を祝福してるというより、自分たちが楽しいだけだよね?ってツッコミたくなりました。
最終的にウェイトンとサイモンとウェイウェイが選択した未来、困難も多いのかもしれないけれど、皆で助け合いながら、三人がそれぞれに幸せな生活をきっと送ってくれる道なのだと思います。
家族愛、同性愛、異性愛、異国で生活するということ、等々、様々なテーマを考えさせられながらも、幸せな気持ちになれる映画でした。
The Wedding Banquet (喜宴) [Oscar's Best Foreign Movie]
余談ですが、ウェイトンの父とウェイトンの母がそれぞれ「高爸爸」「高媽媽」と呼ばれていたのが気になりました。ウェイトンは高偉同という名前で、そのお父さんとお母さんのことは、名字の「高」に「爸爸(お父さん)」「媽媽(お母さん)」を付けて呼ぶんだなぁ、と驚きました。日本だと「田中のお父さん」「田中のお母さん」って感じですかね?