《舞台》Noism1「Mirroring Memories ーそれは尊き光のごとく」
上野の森バレエホリデイ2018
Noism1特別公演
「Mirroring Memories ーそれは尊き光のごとく」
2018.4.28-30 東京文化会館小ホール
演出振付:金森穣
出演:井関佐和子、中川賢、池ヶ谷奏、吉﨑裕哉、浅海侑加、チャン・シャンユー、坂田尚也、井本星那、鳥羽絢美、西岡ひなの
金森穣(特別出演)
Noism1特別公演『Mirroring Memories―それは尊き光のごとく』 - Noism Web Site
2008年からの10年間に創作してきた10作品から“黒衣”にまつわるシーンを選出し、その10シーンの前後を新作で挟む構成のオムニバス作品。
“黒衣”は分かりやすく言えば黒子のような見た目と役割を果たしているが、その存在は金森自身が当日パンフレットでも語るように、死や運命を司る大きな力として物語を牽引する。
“黒衣”に導かれ、支配され、奪われる人々の姿は、抗えない運命に飲み込まれる様を表現しており美しくも悲しい。
しかし、オープニングでは金森、エンディングでは金森と井関が“白衣”で踊ることにより、その運命を超越したところにある「光」の存在を示し、それは生きる希望となって胸に強く残る。
冒頭の作品『Distant Memory』は金森のソロによる新作である。舞台上に立つ金森を見て、衝撃を受ける。そこに立っているのは、いつもの力強く美しく完璧な金森穣ではない。不安に怯えるような弱々しさを持った金森、それはきっと、ベジャールと出会った頃の18歳の金森、あるいはもっと幼少の頃の、ダンスそのものと出会ったばかりの金森を演じていたのだろう。そこから金森の踊りは、もがくような、己を鼓舞するような、そんな過程を経ながら徐々に力強さを増していく。弱々しく見えた姿は、ひとつひとつ強さを纏うように進化する。金森のこれまでがうかがえるようなストーリー性のある作品だった。
劇的舞踊『カルメン』より「ミカエラの孤独」。2014年の初演を見ているが、そのときのミカエラ役は真下恵。真下は清廉で可憐なミカエラ像だったが、今回井関は感情を露わにし、己の運命を嘆き呪うような人間味のあるミカエラ像を演じていた。
『ASU~不可視への献身』より「生贄」。『ASU』全体に流れていた原始的、野性的なテーマが凝縮された踊り、そしてアルタイ共和国のカイ(喉歌)のバイブレーションが観客の心を不穏に揺さぶる。Noismに対して多くの人が抱きがちな、美しく高尚で芸術性の高いダンス、というイメージをあえて壊すような力強い作品である。
劇的舞踊『ラ・バヤデール ー幻の国』より「ミランの幻影」。井関佐和子の美しさは、その身体や身のこなし方だけではなく、彼女の魂からにじみ出ているのではないか。今この舞台で自分がどのように存在し、何を演じ、何を踊るのか、それを的確に理解し表現していると感じさせる圧巻のダンスで魅せる。
ラストを飾るのは新作『Träume ーそれは尊き光のごとく』。直前の『マッチ売りの話』より「拭えぬ原罪」からの流れで、マッチ売りの少女(浅海侑加)を包み込むように、白衣の金森穣と井関佐和子が登場する。白衣の二人は愛と希望に満ちた踊りを少女に伝える。二人の存在はベジャールをはじめとする、彼らを導いてきた師を象徴し、少女はかつての彼らだろう。時は流れ、いつしか彼らが導き、愛を伝導する立場となる。そんな美しい光に包まれた未来に、彼らは間違いなく到達している。
全体を通して、Noismを支えているのはその確かな踊りの技術だけではなく、演劇性を持った豊かな表現力であることが強く打ち出された公演であった。
今年7月に初演を迎える新作、劇的舞踊『ROMEO&JULIETS』への期待が一段と膨らんだ。
(4月29日15:00の回を鑑賞)